三浦しをんの天国旅行
こんにちは。
きのうは死に関する話題を書いたので、その名残で心中をテーマにした三浦しをんさんの短編集の『天国旅行』について書きたいと思います。
色んなテイストの死に関する短編が7つのせられています。
相手に寄り添う手段としての死、抗議・報復としての死、救いとしての死、愛の確証としての死、理想と現実の象徴しての死などなど。
色んな死に対する考え方や態度があるんだと気付かされます。
そしてここに書いたものはあくまで私が小説から読み取ったものなので、読む人によってはまた全く違った意味合いを見出すかもしれません。
小説の醍醐味はこういうところにあるんですかね。
全体を通して言えることは、死について「泣ける」「重い」「不気味」とかって一言で言い終えてしまう、そういう安易な書き方をしていないということです。
作者の死に対する向かい方が感じられました。
7つのお話しの中で一番印象に残ったのは「遺言」というお話しです。
全体的に暗い話が多い中で、この物語はほろりとさせる終わり方です。
ある老人が妻に向けた遺言、というよりかはもはや長編ラブレターです。
その中で二人の長年の歩みがつらつらと語られます。
どうやらこの物語の妻は、思いあまると死を望み、そこに愛している人を道連れにしようとする癖があるようです。
親に反対されて駆け落ちをした末の心中
夫の浮気が発覚した末の心中
人生のむなしさに襲われた末の心中
結局全て未遂で終わり、青酸カリの瓶を空けることも柿の木の枝に縄を掛けることも満足にできなくなるくらい年老いるまで、長い時間を共に生きてきました。
この話だけテイストが違うなとは感じつつ、どうしてなのか府に落ちていなかったのですが、解説で角田光代さんがきちんと言葉にしてくれていました。
他の物語の登場人物はみな、死後の世界に何か希望を抱きつつ、何かしらの意味づけをして行動しています。
一方この物語の主人公だけ死は死でしかない、という思想を持っているんですね。
生きているからこそ得られるものがある。
生きているからこそ死のうとした行為に対して何か意味を見いだせる。
そういう姿勢だってあるよなとはっとさせられました。
そして作者は死の意味を通して逆説的に生の意味を伝えているようにも感じます。
結局生きることと死ぬことは、切ってもきれないものだと実感しました。
結末が曖昧にぼやかされているお話が多く、読み手の受けとり方次第で描かれている死に対する印象がかなり変わるかと思います。
というわけで死について考えるうってつけの一冊!
一度手にとってみてほしいです。
そして感想を聞いてみたいところ。
三浦しをんさんの短編というと『きみはポラリス』もヒット作ですよね。
あちらは人には言えないような、秘密の恋をテーマにしていたと記憶しています。
天国旅行と似たようなテイストの一冊で、二冊合わせて読むと作者のメッセージをより受け取りやすいかなと思います。
それとどちらも表紙が素敵です。
これだけでお部屋に置いておきたくなります。
デザインは青木陵子さんという方のようですね。
こういう絵がかけたら楽しいだろうな。